「人工知能と経済の未来」 井上 智洋著 を読みました

人工知能が経済にどのような影響を与えるのかをテーマにした本です。
現在のAIは囲碁や将棋で、人間に勝つまでに進歩しましたがそれはあくまで一つの或いはよく似た複数の仕事をこなす専用AIです。
2030年から40年にかけて、それが汎用AIに進化する、いやむしろ汎用AIという新しいAIが発明されるだろうと予想されています。
本当に今から10~20年で汎用AIと呼ばれるものが出現するのかどうかはわかりませんが、もし汎用AIが出現すれば、いったい何が起きるのかが考察されています。
本書は、人の生活の仕組みが劇的に変化することを革命と呼び経済の切り口でこの革命について、その本質を説明しています。
例えば、人類が始めに体験した大きな革命として、定住革命があります。
これは、狩猟採集から農業を行うようになった変化です。
食料を自ら生産しストックするようになったこのころから経済活動といったものが始まったと考えられます。
しかし、この時代には農作物の生産には土地+労働が必要とされ、より多くの生産を得るためにはより多くの耕作地を必要としました。
しかし、生産可能な土地の面積には限りがあるので成長が持続することはできず、また生産量が伸びてもそれに応じて人口が増えて、一人当たりの収穫は変化しないというマルサスの罠という現象に直面し人が豊かになることはなかったそうです。
その後、第1次産業革命により、機械化経済が始まります。
現代に生きる我々も基本的にはこのとき始まった機械化経済の枠組みの中にいます。
では機械化経済では何が起こったか? 人は豊かになったのか?
機械化経済では、生産の手段は機械+労働になり、土地が有限だったために成長が持続できなかった時とは異なり、資本を投入し生産設備(機械)を増やすことで生産量を増やすことができるようになりました。
しかし機械化経済の時代では生産力を倍にしてもOutputはせいぜい線形にしか伸びることはなく、設備を増強した分、労働力も増やさないといけないので、人はそれ程豊かになることはないそうです。(これは日々我々が実感していますよね)
General Purpose Technology(GPT)と呼ばれる新しい技術が発明されるたびに、第2次、第3次の産業革命が起きて、それは内燃機関だったりコンピュータやインターネットだったりするわけですが、そういう新しい汎用技術により数十年にわたって成長率が伸びることがあり、そのたびに人は豊かにはなりましたが、それもあくまで機械化経済の枠組みから外れることはなく、成長率はいずれ1パーセントほどの低い水準に収束することになります。
ここで著者は、汎用人工知能というGPTにより今後数十年以内に第4次の産業革命が起き、機械化経済から"純粋機械化経済"の時代に移行すると主張しています。
純粋ってどういうことだろう?と思いますが、それは生産活動に人が関与することがない、”純粋に”機械だけで生産活動ができるという意味です。
これはつまりAIによって人は仕事を奪われてしまう、別の言い方をすれば働かなくてもいい時代がくるということです。
純粋機械化経済の時代では、生産活動に人というボトルネックがありませんので、経済成長率を大きく持続的に伸ばすことができ、人類がこれまで経験したことがない豊かな時代に入ることができるとしています。
しかし、そのままでは仕事を機械に奪われてしまう労働者はこの富を得ることができなくて、資本や生産設備を持つ人のみが富を独占することになります。
どうすればこの豊かな時代に皆が幸せになれるのか、その仕組みを作るのが経済の役割ですので、著者は専門家としてどういう経済体制に移行すれば人類が体験したことのないこの大きな革命からユートピアを作ることができるかを非常に楽観的な視点から論じています。
そして、その働かなくても欲しいものが何でも手に入る豊かな時代に人はなにをすればいいのか?それは本書の最後の最後「おわりに」と題された章に凝縮されています。
著者が「おわりに」で述べているような世界が本当に来るのかどうか?それはきっとまだ誰もわからないと思いますが、その革命の基になる汎用AIをいち早く手にできるように世界中で研究開発が行われているのは確かです。
汎用AIの研究・開発に少しでも貢献したいなと考えながら本書を閉じました。