しんさんのブログ

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「教養としての量子コンピュータ」 藤井啓祐 著 を読みました

ここ数年、「量子コンピュータ」という言葉をニュースで目にする機会が急激に増えました。しかし、「普通のコンピュータと何が違うのか」「GPUがあれだけ高速なのに、なぜさらに量子コンピュータが必要なのか」と聞かれると、明確に答えられる人はそれほど多くないのではないでしょうか。

本書は、そうした疑問に答えてくれる優れた入門書です。

理系出身者であれば量子力学を学んだ経験はあるでしょう。しかし、実際には量子コンピュータそのものを体系的に学ぶ機会はほとんどありません。一方、文系の読者でも理解できるよう、量子力学の基本から丁寧に説明されているため、幅広い層が安心して読み進められます。

本書では、まず量子力学の考え方を平易に解説した後、それを土台として現在提案されているさまざまな量子コンピュータの方式を紹介しています。超伝導方式、イオントラップ方式、中性原子方式、光量子方式など、それぞれの特徴や技術的な課題がコンパクトに整理されており、現在の技術開発の全体像を把握できます。

特に印象に残ったのは、「量子コンピュータは古典コンピュータの置き換えではない」という点が繰り返し説明されていることです。

現在のGPUは、数千個もの演算器を並列に動作させることで、AIの学習やコンピュータグラフィックス、科学技術計算で圧倒的な性能を発揮しています。しかしGPUがどれほど高速になっても、基本的には古典計算の枠組みの中で動作しています。

一方、量子コンピュータは、重ね合わせや量子もつれといった量子力学特有の性質を利用することで、一部の問題では古典コンピュータでは現実的な時間で解けない計算を効率よく実行できる可能性があります。つまり、「GPUより速いコンピュータ」というよりも、「得意分野がまったく異なる新しい計算機」と理解したほうが正確でしょう。

その違いを理解する上で、本書では代表的な量子アルゴリズムも紹介されています。

例えば、Shor(ショア)のアルゴリズムは巨大な整数の素因数分解を高速に行える可能性があり、現在広く使われているRSA暗号に大きな影響を与えることで知られています。また、Grover(グローバー)のアルゴリズムはデータベース探索を高速化できることが知られており、「どのような問題で量子コンピュータが真価を発揮するのか」が具体的なイメージとして理解できます。

さらに、本書ではGoogle、IBM、Microsoftなどの米国IT企業だけでなく、ヨーロッパのスタートアップ、日本の大学や企業による研究開発も紹介されており、世界中でどのような競争が進んでいるのかを俯瞰できます。量子コンピュータはまだ発展途上の技術ですが、実用化に向けて着実に前進していることが伝わってきます。

AIが急速に社会へ浸透した現在、次に大きな変化をもたらす可能性がある技術として量子コンピュータが注目されています。ただし、量子コンピュータはAIやGPUを置き換えるものではなく、それらを補完する新しい計算基盤になる可能性が高いと私は感じました。

巻末には、さらに学びたい人向けの参考書籍や関連映画も紹介されており、「まず全体像を理解したい」という人にも、「さらに専門的な内容へ進みたい」という人にも役立つ構成になっています。

GPU、AI、コンピュータグラフィックスなどコンピュータ技術に興味がある人なら、本書を読むことで「量子コンピュータは何が新しいのか」が明確になるでしょう。これから量子コンピュータを学び始めたい人に、自信を持っておすすめできる一冊です。

Sakana AI CEO デイビッド・ハさんのインタビュー動画を見ました

週末、台風が接近してこの土日はずっと雨。外出もできないので、以前から気になっていた動画をじっくり視聴することにしました。

視聴したのは、最近公開されたTBS CROSS DIGのインタビュー動画、「Sakana AI CEO デイビッド・ハ氏:ミュトスが止まっても『Fugu』は動く」です。 www.youtube.com

約1時間という長編インタビューですが、ハ氏の生い立ちから、ゴールドマン・サックスでのキャリアスタート、AIとの出会い、Google DeepMind(旧Google Brain)での研究、そして東京でのSakana AI起業に至るまで、ご本人の口から非常に詳しく語られています。

特に印象的だったのは、ゴールドマン・サックスでトレーダーとして働きながら、昼休みや帰宅後の時間を使ってAIの論文を読み漁り、匿名ブログで自身の研究を公開していたというエピソード。それがきっかけでGoogleにスカウトされたとさらっと話していますが、これは本当に凄まじいことです。ディープラーニングの黎明期、どれほど大変だったかと思いますが、それ以上に勉強や研究が楽しくて仕方がなかったのだろうと感じさせられます。

OpenAIやGoogleなどの巨大テック企業が巨大な単一の事前学習モデル(Monolithic Model)を追求するなか、日本発のユニコーン企業であるSakana AIがどのような思想と技術で世界に挑んでいるのか。エンジニアとして非常に興味深い内容が満載でした。


巨大単一モデルへのアンチテーゼ:「集合知」と複数LLMのオーケストレーション

Sakana AIの根底にあるのは、ひとつの巨大なモデルに依存するのではなく、複数の専門性を持ったAIを組み合わせる集合知の思想です。

ハさんが説明していた象徴的なプロダクトが”Sakana Fugu”。以下の解説がとても強く印象に残りました。

  • Fugu自体は軽量なLLMであり、コンポーネント(司令塔)としての役割を果たす
  • ユーザーからのタスクに対し、強化学習(RL)を用いて「どのモデル(GPT、Claude、Gemini、DeepSeekなど)に、どのステップでタスクを割り振るべきか」を動的に判断する
  • まさに「アベンジャーズ」のようなチーム体制を構築するアーキテクチャである

エンジニア視点での面白さ

これまで多くのプログラマが、LangChainなどを用いてヒューリスティックに組んでいたモデルの出し分けロジックを、エンドツーエンドの強化学習に置き換えている点が非常にエレガントです。

これにより、特定のベンダーに依存することなくAIの主権を担保できるというのは、極めて合理的で賢いアーキテクチャだと感じました。

Sakana AIは、莫大な資金が必要な事前学習の部分は海外の巨大企業に任せ、自分たちは事後学習と推論時スケーリングにリソースを全振りすることで、日本、そして世界に求められるAIモデルの開発に注力していくそうです。

限られた計算資源のなかで最高のパフォーマンスを出すという制約駆動的なアプローチは、資源の少ない日本が歴史的に得意としてきたモノづくりの精神にも重なります。

ポストトレーニングにおいて、モデルの元々の能力を失うCatastrophic Forgettingを防ぎつつ、DeepSeekやLlama等が持つ固有のバイアスや検閲を排し、日本の価値観や文化にアラインさせる「Namazu」シリーズの開発など、非常に泥臭くも高度なチューニング技術の話は技術者としてすごいと思いました。


次のキーワードはRSI(再帰的自己改善)、AIがAIを自律的に改善する未来

動画のなかで、今後の大きなトレンドとして語られたのがRSI(Recursive Self-Improvementです。

私が動画を観ていて最もワクワクしたのが、この「AIがAIを自律的に改善していく」というプロセスでした。Agent-Nativeモデルから「AI Scientist」、そしてRSIへと繋がるロードマップは、これからのAI開発における最大のメガトレンドになるに違いありません。まさに次の最重要キーワードです。

「AIが自分でコードを書いて次のバージョンを作る」という、まるでSFのような話に彼らは数年前から取り組んでおり、現在はSakana AI内部に「RSI Lab」という専門組織まで立ち上げているそうです。

ハさんは、RSIを効果的に回すことで、最先端ラボの1〜2桁低いコストでモデル開発ができる可能性を示唆しています。このブートストラップ的な進化プロセスには、一種のムーンショット的な夢とロマンを感じました。


独自のビジネスモデル:パランティア型アプローチと防衛への想い

ビジネス面において、Sakana AIはコンシューマー向けの汎用ツールではなく、エンタープライズ、特に日本のメガバンクなどの金融機関や政府系のコア業務への深く尖った導入を進めています。

顧客の現場に、今テック業界で注目されている「FDE(Forward Deployment Engineer)」を送り込み、個別の課題に合わせてAIシステムをカスタマイズして展開する手法(Palantir型モデル)をとっているとのこと。

金融分野の例として、学会の「論文審査AI(AI Scientistの査読機能)」の仕組みを、銀行の「融資審査AI」に応用できるという具体的な話があり、興味深かったです。

また、防衛分野に関するコメントも非常に興味深いものでした。 ハさんは、日本を「世界の中で自由と民主主義がしっかりと機能し、同時に独自の素晴らしい文化も守られている稀有な国の一つ」として深くリスペクトしています。
だからこそ、その日本の民主主義や防衛アーキテクチャをAIの力でアップデートし、長期的な成功を支えたいという強い想いがあり、それが防衛・政府分野に進出する真摯な理由のようです。


まとめ:これからのAIエンジニアに求められるもの

ハさんの「トレーダーからAI研究者、そして起業家へ」という異色のキャリア自体も大変魅力的ですが、何より「日本のリソースの少なさを制約ではなく、イノベーションの源泉として捉える」という逆転の思想に強く共感させられました。

このインタビューを観て、これからのAIエンジニアに求められるのは、単にAPIを叩くだけのスキルではないと確信しました。

  • 複数のモデルの特性を見極め、強化学習や推論時スケーリングを用いてシステム全体を最適化する「アーキテクチャ設計力」
  • 顧客のドメイン知識をポストトレーニングでモデルに高精度に注入する「泥臭いデータエンジニアリング力」

こうした能力こそが、今後のエンジニアの生存戦略になるのではないかと思います。

「sakana.ai」のドメインをわずか2,000円で取得した裏話や、会社名をなぜ日本語の「魚(Sakana)」にしたのかという由来も含め、技術者として多くのインサイトと刺激をもらえる、本当に見る価値のある面白いインタビューでした。

雨の週末のインプットとしておすすめです。まだ観ていないエンジニアの方は、ぜひチェックしてみてください!

ソニーのCVPR2026の活動を眺めてました

今月初め、6/3 - 6/7に開催された、コンピュータビジョン関係のトップカンファレンスの一つCVPR 2026がアメリカのデンバーで開催されました。
まとめサイトを眺めてたら、ソニーも自社の発表を一つのわかりやすいサイトにまとめていました。
www.sony.com

画像センサーと絡めたものや音響と関連付けたものなど、純粋なビジョンのアルゴリズムではなく自社の事業に結びついたり関連している発表が多くユニークな視点の研究が多いと感じました。

Codexでエージェント型AIとやらを駆使してアプリ作ってます

OpenAIに課金してOpenAI製エージェント型AIツール Codexで遊んでます。
まだ、うまく使いこなせているとは言えませんがコードを書かなくても簡単なアルゴリズムならサクッと実装してくれます。
何か出来たらまたブログにあげようと思います。

「ぼくらがAIBOをつくった:ソニー・ロボティクスの挑戦」 黒川文雄 著を読みました

ソニーが造ったロボット犬AIBOの開発に携わった人々のインタビューが開発当時のソニーの社内事情まで述べられていて、結構生々しい話もありました。
え、ここまで書いていいの?!という社内事情や社内政治的なこともぶっちゃけられていて、ソニー関連の書籍では異色ではないかと思います。
AIBOというロボット犬の開発を実際に開発や企画に携わったソニーのエンジニアの目線でインタビューという形式でそれぞれの方のポジションから自分の思いや開発時に考えていたことなど、それぞれのエンジニアが情熱をもって開発に打ち込み苦労したことや楽しかったことそして今その当時を振り返って何を思うのかを本音で語っている貴重な記録です。
今でもソニーのエンジニアとして働いている人もいますし、ソニーを離れて別の場所で活躍されている方もいてそれぞれの人のキャリアも垣間見えたのも興味深かったです。
20代、30代のロボットに興味がある理系学生にもおすすめです。

個人的に注目しているAdvent Calendar 2025

今年もこの季節がやってきました

現在編集中です。
徐々に追加していきます。