しんさんのブログ

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「脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか 脳AI融合の最前線」 紺野大地, 池谷裕二/著 を読みました。

お盆休み読書第2弾です。

脳と人工知能

人工知能の最近の急速な進歩には目を見張るものがあります。
特に深層学習は脳の神経細胞の動きをまねて作られたと言われています。
実際にはコンピュータ上でのプログラムにすぎないのですが、従来の機械学習の常識とは異なるような振る舞いをすることが分かってきています。
先日紹介した岡野原さんの2冊の書籍にそのあたりのことは詳しく書いてあります。
ディープラーニングを支える技術 「正解」を導くメカニズム
ディープラーニングを支える技術 「正解」を導くメカニズム 2
一方本書は、脳と人工知能の接続や脳そのものの仕組みの解明について、著者らの研究の現場でどのようなことを考えているのかが記述されています。
私は、脳の意識という部分に以前から興味があり、意識を持つような人工的な装置(あえてコンピュータとは言いません)は可能であると思っています。
というのも、脳も物質でできているのですから脳と同じような動作をする人工的な装置が不可能である理由はないと考えられるからです。
本書にもそのような脳と意識の関係について紹介されていて、興味深かったです。著者も意識の研究をしてみたいと書いていますし、今後ディープラーニングなど新しい技術を使って、意識の研究がさらに発展するのではないかと期待が持てます。

脳の研究の難しさ

脳の研究をすると一口言っても、脳、特に人の脳を使う研究は非常に難しいことは想像に難くないです。
そうした中でも、イーロンマスク率いるNeuralinkが徐々に可能性を広げていっていることや、Neuralinkとは異なり非侵襲的に脳の活動を観察したりまた脳に情報を書き込む手段があることを紹介しています。
しかし個人的にはどの手法も非常に多さばっぱで解像度が粗すぎて、脳の動作の詳細、例えばコンピュータでいう所のロジックレベルで見えているわけではなく、非常にもどかしく感じます。
とはいえ、人の脳に自由に電極を指したり解剖しながら動作を確認するわけにもいかないのでそこは難しいところです。
その困難に対しても今後の技術の進歩で解決できるかもしれないと書かれています。

脳とAI融合の未来

最後の章では、脳とAIの融合による未来についてあるいは脳と脳をコンピュータを介して接続すると言ったSF小説の世界のような話が現実の研究として考えられていると書いています。
さらに、現在の人が理解する科学が将来人工知能が人に理解できない形で自然を理解するように変わるかもしれないという科学研究のありかたにも話が及んでいます。
個人的には人がより少ない原理だけから自然を理解するという営みは、まだ説明できていない新たな現象を説明するという大きな働きがありそれは高次元の科学に勝る部分ではないかと思うので特に物理学のような基礎科学においては統一理論を探索するという営みは 依然重要な意味が残り続けると思いました。
例えば、現状では観測が非常に困難な別の宇宙や宇宙が始まる以前に何があったかは観測結果がないですので人工知能が記述するような高次元の科学では扱うことが無理ではないかと思います。
とはいえ、深層学習で場の理論を記述できるというような話もありますし将来は深層学習で統一理論を記述できるような時代が来るのかもしれないと思うとそれもまた楽しみです。