しんさんのブログ

科学や技術のこと読書のことなど

「イノベーションはなぜ途絶えたか  -科学立国日本の危機」山口栄一/著 を読みました。

お盆休みの読書です。

本書は前半部分のイノベーションの話と後半の科学リテラシーやトランスサイエンスの話に分かれます。
しかし、それらは別々のテーマとして書かれているのではなく、それらを貫く考え方として科学の発展には、著者の言う昼間の科学と、夜の科学がありそれらを自由に行き来することが重要だと論じている。

昼間の科学とは、知の具現化による価値の向上で企業では開発業務とも呼ばれすでに知られた科学的知識を使って改良したり改善したりして経済的価値をあげる行為を言います。
一方の夜の科学は、知の創造や知の越境と言われる既存の枠組みを超えた知の融合や創発による新しい知の創造と言った主に基礎科学の分野で行われているような研究活動のことを指しています。
企業のイノベーションが衰退してしまった理由を、中央研究所の廃止や成果だけを求める企業研究のありかたの変化に伴うこの知の創造や越境が出来なくなったことに起因すると論じています。

目の前の技術の改良や他から持ってきた技術や研究成果の組み合わせによる研究で目の前の山に登るような現在の企業のイノベーションでは、他の山の存在や、されに挑戦的な未来の革新的技術には到達できないと述べています。
一例としてシャープをあげてます。シャープは液晶での成功から液晶という山以外は見えなくなってしまい結局自滅してしまいました。
昼の科学だけに頼り新しいイノベーションが生まれなくなった失敗例です。

企業のR&Dに対して何が必要かというヒントが盛りだくさんの本書であるが、論文数が右肩下がりで衰退しつつある日本の科学に対する提言としても一読の価値があると感じました。
真のイノベーションとは何かということを考えさせられる一冊でした。