しんさんのブログ

科学や技術のこと読書のことなど

「多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織」 マシュー・サイド/著 を読みました

多様性がなぜ必要か

職場に限らずあらゆる組織で多様性の重要性が声高に言われていますがそこには科学的に合理的な理由があると言うことを人為的理由による航空機事故や登山隊の事故の実例をあげながら解説しています。
目的が明確でしかも一つだけならその分野における天才が一人いればそれで事足ります。
100メートル走を考えれば多様性は関係なく100メートルをとにかく早く走れる人がいればそれで十分です。
しかし、いま世の中にない新しい技術を生み出すことを考えるとそれでいいのでしょうか?
天才的な技術者だけが集まって魅力的で役に立つ新しい技術が生まれるでしょうか?
本書ではそれは難しいと述べています。

複雑で一筋縄ではいかない問題の解決には多様性が必要なのです。

会議の多様性

たいていの会議は多様で自由な発言が許されているように見えてそうとは言えないと指摘します。
日本企業の会議にありがちなのですが、自由に何でも発言できるように形式的にはなっていても、実際にはたいていの会議が機能不全に陥っており参加者の多くが発言せず地位の格差で方向性が決まってしまっています。
自由に発言しているように見えて、みな自分の言いたいことを言わずリーダーが聞きたいであろうことを言う。
その結果、会議で重要な情報を共有し損なう。
つまり多様性を高めるには威圧や脅し(実際はこのように露骨ではなく職位や経験、人脈などを通して威圧や脅しの構造が見えなくなっている)ではなく、能力により周りから尊敬を集めるような人がリーダーにつくことが多様性のある組織には必要だそうです。

AIと多様性の関係

本書の最終章に非常に示唆に富むことが書かれていました。
火というテクノロジーの発見が、食べ物を加熱することを可能にし、人類の胃腸などの消化器官をコンパクト変化させ、その結果消化器官に回すエネルギーを脳の成長に使えるようになりました。
では、今爆発的に進化しているAIテクノロジーは人類の進化に何をもたらすでしょうか?
それは、誰もが気づき始めているように脳そのものを変化させることになるでしょう。
AIが知的労働の一部を奪うというようなことだけでなく、人間という存在、高度に発達した前頭葉という人間だけが持つ内臓の一部に対しても大きな影響を及ぼし世代が進むごとに脳はAIがあることを前提とした形に変化していくことでしょう。

私の個人的な意見ですが、人類の知性が個人だけでなく集団の多様性の上になりたっているなら、AIがその多様性の一翼を担っていくだろうと思います。
AIが大きな一つの脳のようにふるまうことで人類全体の脳を接続し、文化や新しい発見を素早くそして深く人類全体に共有するプラットフォームになる可能性があるのではないかと思います。

多様性を保つために気を付けること

  • 画一化した集団内でのエコーチェンバー現象
  • 平均値の落とし穴
  • 多様性の力とそれを軽視する危険性
  • 集団脳、集合知心理的安全性、融合のイノベーションを重視する
  • 標準化から個人化への流れを常に意識する
  • 無意識のバイアスを取り除く
  • 認知の多様性を最大限に広げる
  • 与える姿勢の重要性